2022
05.02

【本のご紹介】仏教経済学:暗い学問―経済学―に光明をあてる

つなぎあい

 「仏教経済学」は、E・F・シューマッハが著書『スモール イズ ビーティフル:人間中心の経済学』で、初めて使用した用語だ。

 シューマッハは、物質財貨への執着よりも、個人の資質の開発と人間解放を重んじるシステムの必要性を説き、「仏教経済学」が目指すものは「最小の消費で最大の幸福を得ること」とした。同書の出版は1973年のことである。

 今、世界は、どのようになっているのだろうか。多くの人々は、世界の現状を目の前にして、未来に希望を持てないでいるのではないだろうか。限りない欲望の前に、跪くしかない人間の弱さに打ちひしがれているのかもしれない。

 『仏教経済学:暗い学問―経済学―に光明をあてる』は、環境破壊や資源の枯渇、貧困問題の根源ともいわれる「自由市場経済学」に対し、より良い世界を作り出すために、個人の生活と経済を作り変える道標を提供しようとするものである。
 
 著者のクレア・ブラウンは、「仏教経済学に取り組み、実践するには、勇気が必要だ」と語る。生活を変える勇気、環境を護る勇気、正義を貫く勇気、喜びとともに生きる勇気である。

 金銭欲にかられた長時間労働と出世競争に決別する勇気、他人を助け、心満たされた生活をする勇気、単調な繰り返しの生活を離れ、人生を楽しむ勇気が必要なのである。

 国のレベルでは、環境を保護し炭素排出量を減らす経済、成長を所得の増加ではなく幸せの改善と定義する経済。そういう経済に必要な基礎整備を、政府に要求する勇気が必要である、と導く。

 そして、すべての種と将来世代に代わって、私たち自身が行動する政治的意思と勇気が必要だとし、仏教経済学には終わりはなく、それは一生の関わり合いであり、歩みだと結論付ける。
 
 訳者の村瀬哲司氏は「あとがき」で、明治時代の実業家渋沢栄一の『論語と算盤』の「仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」という考えを挙げた。
 
 「仏教精神に学ぶ経営者の集い」を自認する「六花の会」。参加者一人ひとりに勇気を与えてくれる本である。

本のご紹介
仏教経済学:暗い学問―経済学―に光明をあてる

著者 クレア・ブラウン
訳者 村瀬哲司

勁草書房
定価 本体2,600円+税