2022
11.09

【本のご紹介】仏典のことば~現代に呼びかける知慧

つなぎあい

  令和4年9月17日に行われた第2回「仏教精神に学ぶ経営者の集い」。ご講演の庭野日鑛立正佼成会会長は、中村元著『仏典のことば~現代に呼びかける智慧』を引用された。その書籍を紹介する。
  
  本書は中村元先生の3回にわたる記念講演をまとめたものである。講演の際、依頼団体からは2つの特徴を考慮してほしいとの話があった。
(1) 専門学術的な発表ではなくて、学術的ではあるが同時に社会一般に向かっての啓蒙的であること。
(2) 現代の時勢に連関をもち、現代社会において重要な問題を論ずること。

  仏教の知慧と題した「まえがき」には1989年8月と記載。仏教研究に打ち込んできた中村元先生は「2つの特徴は33年前の当時の現代人には重要なことだ」と述べている。目次の項目に眼を通すと、当時の現代人にとって重要なことは、現代の私たちにとっても重要なことであると感じられる。

  本書は大きく3つの「部」に分けられ、その「部」ごとに「章」が立てられている。
  「仏法と人間―プロローグ」につづく「部」は「経済的行為の意義―仏教の経済倫理」「政治に対する批判―仏教の政治倫理」「理想社会をめざして―人生の指針」。各「章」の詳細については、是非、本書を手にして確認していただきたい。

  私が、その「章」のなかで特に感銘したものをひとつ挙げるとしたら、プロローグ「仏法と人間」で語られている「無常変遷のうちに道理をみる」の言葉である。

  「人々は無常の理を見失っているから、煩悶もあり、嘆き悲しむのですが、若し、無常ということが、のがれられぬ道理であると観ずるならば、煩悶も消えうせることになります。(中略)。『ああ、もうだめだな』と気づくことによって、覚悟が定まる。『覚悟』ということばは、文字通り『道理をさとる』ということです。(中略)。『無常のことわりを通じて永遠なるものを見よということであります。この永遠不変なるものを、『ダルマ』と、もとのことばで申しますが、それを漢文では『法』と訳します。あるいは『道』と訳すこともあります。この法は人間にとって至上のものです。この『ダルマ』というのは「保つもの』という意味ですが、つまり、人を人として保つものです。それは、人間の真理です。だから仏教のことを『仏法』というのです。」

 この続きを読むことによって、私は「仏法」というものの存在が、民族や時代の差を越え、さらには諸宗教の区別を越え、単なる法律とも異なっていることを知ることができた。

 人間の根源的な「法」とは何かを知ることができれば、職業や地位の区分、そして、悩みや問題の違いを乗り越えた「仏法」に向き合うことができる。そこからすべてが始まると信じることができたのである。

 「仏教精神に学ぶ」とは何か。そのことを、もう一度、自分自身に問いかける意味でも、「仏教精神に学ぶ経営者の集い」に関わる経営者には本書をお薦めしたい。
 

本のご紹介
『仏典のことば~現代に呼びかける知慧』

著者 中村 元

岩波書店 岩波現代文庫
定価(本体1000円+税)