2023
10.06

【本のご紹介】ザ・ラストマン

つなぎあい

 本の帯には「続々重版出来」とある。私は、七版の単行本に触れたが、あの日立製作所を、7,000億円の赤字から営業利益・過去最高益にV字回復させた男の著書である。真摯なビジネスマンならば、読みたいと思うのは当然のことだろう。

 「この工場が沈むときが来たら、君たちは先に船を降りろ。それを見届けてから、オレはこの窓を蹴破って飛び降りる。それがラストマンだ」

 これは、著者の川村隆氏が、課長に昇進した際、工場長から贈られた言葉だ。

 「その時から、私の胸に『ザ・ラストマン』という言葉が深く刻まれています」
 
川村氏は、「社長というものは覚悟さえあれば誰にでもできるものだと思っています。よく『リーダーにはカリスマ性が必要』などと言われますが、そんなことはない」と、ハッキリと述べている。

 そして、江戸時代の禅僧鈴木正三が挙げた「指導者が備えるべき能力」として、何時の時代にも通用する能力を7つ紹介しながら、8つ目には、現代で最も大切な能力を示している。

 1.先見の明がある
 2.時代の流れを的確に読める
 3.人の心をつかむことができる
 4.気遣いができる人徳がある
 5.自己の属している共同体、組織全体について構想を持っている
 6.大所高所から全体を見渡せる力量を持っている
 7.上に立つにふさわしい言葉遣いや態度が保てる
 
 そして、
 8.従来の習慣や柵(しがらみ)にとらわれないで、痛みを伴う厳しい対策をきちんと実行できる、そういうぶれない覚悟を持つ

 「世の中に『絶対につぶれない会社』はありません」

 日立改革の牽引役(ラストマン)を担えたのは、「意思決定したことを、実行できた」という、ごく当たり前の理由からだと言い切る。そして、実現できたのは、とてもシンプルな5つのプロセスだと説明する。

 1.現状を分析する
 2.未来を予想する
 3.戦略を描く
 4.説明責任を果たす
 5.断固、実行する

 しかし、ビジネスの現場では、「簡単そうなこと」が「とても難しい」とも語る。

 「リーダーとは、“慎重なる楽観主義者”」が川村氏の持論だ。

 「楽観主義といっても、ただ能天気なだけの楽観主義ではいけません。現状を分析し、将
来起るかもしれない危機を見越して、慎重に考え、意志を持って希望を提示する楽観主義でなければならないと思っています」

 経営者の在り方については、よくある譬え話を例にして、答えを出している。

 「コップに半分の水が入っているのを見て、『半分しかない』ととらえるか、『半分もある』ととらえるか、という話があります。半分しかないと思う人は、ネガティブで、半分もあると考える人はポジティブであると言われています。
 ラストマンはそのどちらでもなく、『水が半分もはいっているけど、コップいっぱいになればもっといい』と考える人でしょう。
 そしてコップをいっぱいにするにはどうすればいいかを考え、みんなを引っ張っていくのです」

 では、どうすればそういう意識を持った経営者になれるか。
 その答えは、この本を手にして見つけていただきたい。「重版出来」の秘密がそこにある。

本のご紹介
ザ・ラストマン

日立製作所 元会長
川村 隆 著
角川新書
定価990円(税込み)