2020
11.16

【本のご紹介】超訳 易経 陰―坤為地ほか―

つなぎあい

 「易は窮まれば変じ、変ずれば通じ、通じれば久し」―繋辞伝―は、「自然の循環はもとより、人間社会も栄枯盛衰をくりかえし、久しく永続していく」という意味で、「変通の理(ことわり)」を表すことばである。中国の四書五経のトップに挙げられる経書「易経」の「易」は、「変わる・変化」を表し、人間の思いが自然の法則にぴったりと合致した時に、はじめて実りを得られる「経(ことわり)」を説いているのが「易経」だ。
 紹介する本は、竹村亞希子さんの「超訳 易経 陽―乾為天―」に続くものである。
 「易経」は、この世のすべてのものごとが生まれて来るエネルギーの源を意味する「太極」。そして、そのすべてのものごとは「正反対の二面性を持ち」、「陰」と「陽」が同時に生じていると考えることから始まる。この2冊が揃うことによって、ひとつになれたのだと思う。だから、どちらが先でも結構だがが、ぜひ、両方の本を手に取ることをお薦めする。
 「陰」と「陽」は相対するものだ。例えば、「天と地」「男と女」「裏と表」「善と悪」
「正と邪」「昼と夜」など、どちらか一方がなければ、もう一方もありえない。つまり、「陰」と「陽」は、表裏一体となっていて、実際は一つのものであると説かれているのである。
 この理(ことわり)を、今の時代に合わせてみると、「コロナ禍」による社会活動、特に経済活動の低迷は、人々のこころに多くの不安を与えていると思う。しかし、「易経」では、「人間は、良いことばかりでは成長できず、悩みや問題、葛藤、あるいは障害といった負荷があった方が成長します。悩み苦しみを解決しようとすることで、生きる力が湧き、新たな希望と喜びを得ることができる。変化があってこそ、人は成長して新たなものを生み出していく。その変化のエネルギーの源となるのが陰陽の作用である」ことを示している。
 人間社会の出来事も栄枯盛衰をくりかえしている。これが一定の不変の法則で変化するということだ。「コロナ禍」のなかで、ニューライフスタイルといった考え方が一気に世界に広まり、自分たちの当たり前だと思っていた生き方に、大きな転換のインパクトを与えたことを私たちは目の当たりにした。その中から、新しい営業スタイルや商品、社会課題を解決する起業が、次々に開発されている事実も肌で感じているのが、社会の事実である。
「陰が極まれば陽になり、陽が極まれば陰に転ずる」。満月が、時が来れば欠けるように、そして、また満月へと繰り返す変化が、この世の成り立ちの根源であることを教えている。
 私たちが欠けていくように観える月は、実は、欠けてはいない。私たちは、月の変化が規則通りに変化することを知っているから、安心して月を観ることができるのだ。中秋の名月に酔いしれることもできるのである。
 それでは、私たちは、どのように「コロナ禍「の時代を生きていけば良いのか。
「易経」では、「陽」の成長の裏側には、必ず「陰」の努力と忍耐が隠れていると説いている。成長の各段階では、「耐える」「受け容れる」「学ぶ」「したがう」「努力と反省をくりかえす」「退いて初心に還る」といった「陰」の要素が不可欠であると断言する。つまり、「陽」と「陰」が一体となったところに成長があるのである。例えば、会社経営が上手くいっている時こそ、「陰」が示す生き方が必要なのだ。
 「潜象は現象に前駆する」。「易経」は何のために時と兆しについて教えているのか。それは、時を読み、兆しを察して、その時にぴったり合った行動をとれば、多くの人生の問題は解決し、願いはかなうものだからである。兆しを観る目を養えば、その時に合わせてぴったりのことができる。どんな混乱の時にあっても、必ず、その時を通り抜ける最善の道に「時中」があるのだ。
 その「時中」とは何か。「コロナ禍」の中、ぜひ、経営者の皆さまに読んでいただきたい一冊である。

本のご紹介
超訳 易経 
―乾為天―
著・竹村亞希子単行本(ソフトカバー)
本体価格 2000円+税
株式会社 新泉舎