2021
06.16

【本のご紹介】「GRIT」やり抜く力

つなぎあい

 この本を読むと、あらためてアメリカの凄さを感じる。著者のアンジェラ・ダックワース女史は、アメリカ教育界で重要視されている「グリット」(やり抜く力)の第一人者。教育界、ビジネス界、スポーツ界のみならず、ホワイトハウス、世界銀行、経済開発機構(OECD)、米国陸軍士官学校など、幅広い分野のリーダーたちから「やり抜く力」を伸ばすためのアドバイスを求められ、助言や講演・研究を行っている人物である。
 とにかく、凄いのは「やり抜く力」が、アメリカの教育界で重要視されていること。
 次に、その調査や研究が、教育界に止まらず、幅広い分野で求められていること。
 そして、何といっても、日本では「根性論」のように精神論で済まされそうな「やり抜く力」のテーマを、さまざまなアンケートや実験、20年以上にもわたる個人の追跡調査など、データに基づいた研究発表が行われていることが頷きを深くする。
 だからといって、日本人に馴染めないわけではない。

 「グリット」すなわち「やり抜く力」は、「情熱」と「粘り強さ」の二つの要素から成る。「情熱」とは、自分のもっとも重要な目標に対して、興味を持ち続け、ひたむきに取り組むこと。
 「粘り強さ」とは、困難や挫折を味わってもあきらめずに努力を続けることだ』

 これが、データに基づいた調査結果だ。
「なーんだ。そんなことは分かっているよ」と皆さんは思われるかもしれない。しかし、アメリカの凄さは、人間の行動心理をデータ化し、その違い、変化を追跡調査し、仮定ではあるが、「やり抜く力」を得るための暗黙知を形式知にしたことである。
 子供の「やり抜く力」は、どうしたら身につくのか、その時の親や先生は、どのような言葉や態度で接すると「やり抜く力」となるのか、その反対の態度とは何か。それが、具体的なのである。データでの実証なのである。
 そして、日本人なら当たり前のように思えることに結論を導く。

 「やり抜く力」が強いということは、一歩ずつでも前に進むこと。
 「やり抜く力」が強いということは、興味のある重要な目標に、粘り強く取り組むこと。
 「やり抜く力」が強いということは、厳しい練習を毎日、何年間も続けること。 
 「やり抜く力」が強いということは、七回転んだら八回起き上がること。
 でも、どうしたら「やり抜く力」が強い人になれるのだろうか。この問いには、次のように応えている。

 「これは人の役に立っている」という、自分が目指していることの「目的」を持っていること。

 昼夜を問わず苦労を重ね、挫折や失望や苦しみを味わい、犠牲を払っても、それだけの価値はある。なぜなら最終的に、その努力はほかの人びとの役に立つからという目的になるからである。そうした「役に立ちたい」という目的を持つことが、「やり抜く力」の基本となるのだ。

 この話を導くために、「レンガ職人」の寓話を例にしている。

 あるレンガ職人に「何をしているんですか」と話をすると
  1番目の職人は「レンガを積んでいるんだよ」
  2番目の職人は「教会をつくっているんだ」
  3番目の職人は「歴史に残る大聖堂を造っているんだ」

 3番目の職人は「やり抜く力」が強いのだという。
 アメリカでは、マイクロソフトのビル・ゲーツやフェイスブックのマーク・ザッカーバーグをはじめ、多くのビジネスリーダ―が「やり抜く力」を重要視している。
 さまざまな分野で、いまも世界のトップにあるアメリカ。そのアメリカが「やり抜く力」に眼をつけている。日本は、今、何に眼をつけるのだ、と問いたい。コロナ禍のワクチン接種も含め、さまざまな対策のニュースを観ると、自分たちの権益や利権をまもるために動いているとしか思えない。
 私の答えは決まっている。それは「利他行」だ。「他のために役に立ちたい」という「やり抜く力」が、日本のあらゆる分野で、今こそ、必要だと判断している。
 働く(はたらく)とは「傍(はた)を楽(らく)にする」という意義を伝えたい。

本のご紹介
「GRIT」やり抜く力
著者 アンジェラ・ダックワース
ダイヤモンド社
定価 本体1,600円+税