05.30
【本のご紹介】経営の行動指針 土光語録[新訂]
立正佼成会開祖庭野日敬師は、1981年、行政改革第臨調・第一特別部会会長代理の牛尾治朗(当時のウシオ電機会長)の司会で、土光氏と、雑誌「現代」で対談を行っている。その対談テーマは、「行革つぶしの亡者を切る」である。
土光氏は、昭和時代のエンジニアであり実業家であった。石川島重工・石川島播磨重工業社長や東芝社長・会長を務め、経済団体連合会第4代会長に就任し、「ミスター合理化」として「土光臨調」と称されるほど、第二次臨時行政調査会では辣腕を振るった方である。
当時、質素な暮らしぶりから、マスコミでは「メザシの土光さん」と呼ばれる反面、その行政改革に対する決断力と実行力から「行革の鬼」とも言われていたのである。
「増税なき財政再建」を旗印に、当時の国鉄や専売公社・電電公社の民営化などを推し進め、日本という国の健全な社会基盤づくりをしているのだ。
日本では、経営者としての学びと言えば「渋沢栄一」や「松下幸之助」「稲盛和夫」が挙げられるが、土光敏夫も忘れてはならないと、私は考えている。
この本は、土光さんが「東芝」の社長として迎えられ時、その言動を眼にし耳にするにつけて、そのエッセンスを全社員に伝えたいとの願いから、社内報の巻頭として「土光語録」をまとめたものが基盤となっている。
その編者である本郷孝信氏は、「語録そのものは、正真正銘、土光さんの生の肉声である」と述べているのだ。
1970年に初版が発刊されて以来、そして、今回の新訂版発刊の1996年から2011年までの間に25刷まで版を重ねてきたことは、多くの方に読み継がれている価値ある本であることを証明していると感じている。
数多くある「巻頭語録」の中から100の語録を選択して掲載している。見開きで読み切れる分量で、非常に読みやすいし、タイトルだけでもこころに残るメッセージとなっている。
手に取って、全てを読んでいただきたいと思う。が、その足掛かりになるようにとの願いをこめて、その中の1つを紹介したい。土光さんの想いが十分に分かると思う。
99「面壁一生」
私のこれまで辿ってきた人生を振り返ってみると、どの時点でも、障碍とか難関
とかのカベにぶつかり、カベを破り、カベを乗りこえることの連続だったような気
がする。そんなとき、カベの前で立ち往生したり、カベから逃げだしたりすること
を、自らにきびしく戒めた。
もちろん、カベを征服できないで失敗することもある。いや正直言って、失敗の
ほうが多かったかもしれない。
それでも、私はその失敗にこだわらない。すぐ反省して別の手を考えだし、改めて
カベに立ち向かうからだ。そんな風に失敗をしっぱなしにしないで、次の挑戦の具に
すれば、失敗は貴重な体験になる。だから、部下たちが失敗しても、それがカベへの
挑戦結果であれば、私は決して咎めない。何もしないで失敗しないよりは高く評価する。
私は若い人たちに口癖のように「カベを毎日破れ」というのだが、なかには「私に
はカベがありません」というのがいる。「そうか、ないか。君は座ってジッとしている
じゃないか。立って動いてみろよ。動けばぶつかってカベが意識できる。カベは行動
する者だけに見えるのだ」と。
「面壁九年」という言葉がある。中国の禅宗の開祖達磨大師が、壁に向かって
座禅すること九年で悟りを開いた。この言葉にあやかり、私は“面壁一生”であって
よいと思う。仕事の上であろうと生活の下であろうと、一生かけて毎日のようにカベ
を見つけて破ってゆくところに、人生の進歩があると信ずる
現代の私たちのこころにも、土光さんの生の肉声は聴こえてくると感じている。そんな感じを与えてくれる本である。
本のご紹介
土光敏夫[著] 本郷孝信[篇]
産業能率大学出版部
定価1,760円(税込み)