2019
12.05

【本のご紹介】幸せ企業のひみつ

つなぎあい

ギブ&ギブの心意気

以前、著述家の植西聰さんに取材でお会いした際に教えていただいたことなのですが、「経営」という言葉はもともと仏教の経典のなかにある言葉なんだそうです。
その意味は簡単に言うと「人格を向上させること」らしく、それが日本ではいつの間にか、「うまいこと管理をすること」「うまいこと利益を生み出すこと」と同意語のようになってしまったといいます。
たしかに、経営の「経」という字は「お経典」の「経」でもあり、「縦糸」という意味もありますから、時代が変わっても変わらない大切なこと、または真理のようなことを指すのかもしれません。それを「営む」となるわけですから、なるほど、人格を向上させる営みをする者を「経営者」と本来いうのかもしれません。
 では、現代において本来の経営という意味では、どんなことをするのかな? と思うのですが、そのヒントが今回出版させていただいた『しあわせ企業のひみつ』(前野隆司・編著/千羽ひとみ・著)のなかにあるのではないかと思うのです。
 ご登場いただいたどの経営者さま、企業さまも共通していたのは、社会に対して、お客さまに対して、従業員に対して、「自分たちに何ができるのか?」をとことん追求し続けている点でした。そして、その心意気が人格の向上と重なるように私には思えました。
「ギブ&テイク」「ウイン・ウイン」など、「与えることによって利益を互いに得よう」という考えが商売の基本のように語られたりしますが、この本をよくよく読んでみると、「果たしてそれだけでいいのかな?」と感じられます。
無名だった高校野球部を転任するたび、2度も甲子園出場に導いた、松葉健司先生は、子どもたちに「ギブ&テイク」ならぬ、「ギブ&ギブ」を伝えてきたといいます。
とにもかくにも、自分にできることを精いっぱい発揮して、チームのため、仲間のため、家族のために「与え続けること」を、見返りを求めず徹底することを重んじていらっしゃったんです。
松葉先生曰く、アウトプットによってインプットされる法則で、呼吸と同じく、吐き切ったものが自然と酸素として体に戻ってくるように、知識、知恵、意欲として自分の血肉になる――。見返りを求めずに、力を出し切るというのは、とても勇気のいることで、なかなかできないことに思えますが、そのほうが大きな成長、喜びが得られ、意欲も増すというのです。
その話を松葉先生にお聞きして思ったのが、「利益(りやく)」という仏教の言葉でした。
「ご利益」とは、めぐりめぐって与えられるものであって、損得勘定の果てにある「りえき」とは異なったものです。
 いま、自分に宿る命をどう使うのかを考えに考え、まずは〝ギブ〟していく。それが「使命」ということ、そして、使命に気づけることが「利益」かもしれない。そんなことを思いました。
これは!「締め切りが怖い~」「眠い~」などと言っている場合ではありません!(笑)
そんな暇があったら、さらに喜んでいただける情に報いる「情報」を読者のみなさんにお届けできるように精進せねばと思う、今日、このごろなのであります(汗)。
吉川めっ!! お前の言うておることは、きれいごとぢゃ! 偽善ぢゃ! なんて声も聞こえてきそうですが……(笑)。
立派なきれいごとを実行し、立派な偽善をやってのける諸先輩方に育ててもらった私としては、それでも歯をくいしばってがんばってみようと思います。感謝。

株式会社 佼成出版社
図書第二編集長 吉川暢一

本のご紹介
『幸せ企業のひみつ──〝社員ファースト〟を実現した7社のストーリー』
編著・前野隆司/著・千羽ひとみ

四六判・並製/220頁
本体価格 1,400円+税
※電子書籍も好評刊行中

幸福学研究の第一人者である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院教授)と、ノンフィクションライターの千羽ひとみ氏が「社員を幸せにする」ホワイト企業7社を取り上げ、“幸せ企業のひみつ”を解き明かしていきます。
「社員が幸せになることで、“みんな”が幸せになる」と前野氏は言います。“みんな”とは、社員も経営者も顧客も社会の人びともすべての人が含まれます。そんなことが本当に可能なのでしょうか? これからの時代の経営や働き方について、新たな知見が得られる一冊です。

撮影/篠田佳男