03.19
【本のご紹介】実践経営哲学
本のタイトルにあるように、この本では、松下幸之助氏が経験知で掴んだ実践的な「経営哲学」が描かれている。帯には、「人生と経営の妙味ここにあり!!」と記されている。
読み進めてみると、人生と経営という、ある意味、相反するテーマが、バランスよく語られていると感じた。どちらかを一方的に語ってまとめるのは簡単なのかもしれない。特に、経営上の大きな判断をする際には、人生という情の部分がじゃまになる場合もあると思う。
しかし、松下幸之助氏は、どちらが欠けても、短期的には成功したとしても、長期的には失敗することになる。そして、そのバランスをどうとるか。それが、経営者に求められることなのだ、と語っている。
まえがきでは、「本書は、そうした私の60年の事業体験を通じて培い、実践してきた経営についての基本的な考え方、いわゆる経営理念、経営哲学をまとめたものです。経営理念、経営哲学というと、いささかいかめしい感じもしないではありませんが、もとより学問的に研究したというものでもありませんし、体系的に整備されたものではありません。あくまでも実践的なものであり、私は経営というものは、この基本の考え方に立って行うならば、必ず成功するものだと体験的に感じているのです」
「体験的に感じている」。その言葉の意味は重たいと思う。創業して一代で世界のブランドを築き上げてきた経営者である。そのひと言は、学者が説く経営理論や哲学より、また、古い新しいとかの違いが無い、普遍的な体験的経営哲学だと断言しているのだ。
目次に眼を通すと、経営者に語りかける松下幸之助氏の心遣いが読み取れる。目次そのもののテーマの順番が、私たちが経営を考える上で大事なテーマであり、そして、自身の経営哲学を創造するためのフォーマットになっているのだと考える。
まず経営理念を確立すること
ことごとく生成発展と考えること
人間観を持つこと
使命を正しく認識すること
自然の理法に従うこと
利益は報酬であること
共存共栄に徹すること
世間は正しいと考えること
必ず成功すると考えること
自主経営を心がけること
ダム経営を実行すること
適正経営を行うこと
事業に徹すること
専業に徹すること
人をつくること
衆知を集めること
対立しつつ調和すること
経営は創造であること
時代の変化に適応すること
政治に関心を持つこと
素直な心になること
詳しい内容は、実際に本を手に取り、お読みいただきたい。
私は、「素直な心になること」を最後にもってきたところに、経営者が経営を進めていく上で一番根本となる大切なものが、「素直なこころ」になることだと松下幸之助氏は言っているのだと思った。
「経営の神様」と言われる所以がここにあると感じている。
「経営者にこの素直な心があってはじめて、これまで述べてきたことが生きてくるのであり、素直な心を欠いた経営は決して長きにわたって発展していくことはできない。
素直な心とは、言い換えれば、とらわれない心である。自分の利害とか感情、知識や先入観などにとらわれずに、物事をありのままに見ようとするこころである」
そして、あとがきでは、この本の締めくくりとして次のように語っている。
「結局、人間というのは一人ひとり顔かたちがちがうがごとく、一人ひとりみな異なった持ち味を持っています。ですから、他人がうまくやっているからといって、自分もその通りのやり方をして、それでうまくいくかというと必ずしもそうではありません。自分には自分の持ち味に合った一番いいやり方があるはずです。そういうものを生み出していくことが、成功につながっていく道でありましょう」
「仏教精神に学ぶ経営の新しい経営哲学を創発しよう」との使命を持つ「六花の会」に参加する経営者には、一度、読むことをお薦めしたい。
本のご紹介
著・松下幸之助
定価 836円(税込み)
PHP文庫